『金原宗豊書簡案』筆者蔵
前回の『就無邊無極流印可御相傳起請文』と関係の深い『金原宗豊書簡案』です。
案というのは下書のことにて、金原氏のために誰か別の人が調えたものかと思われます。
この文書の主旨は、無邊無極流の印可巻物及び印可起請文を送ったので、印可巻物に名前と判形とをお願いしますとのこと。
一筆啓上仕り候.先以て向暑相募り候得共.益御勇健御座成させられ目出度御儀と存し奉り候.
こゝは凡そ、時候・向の人の起居・己の起居などを述べるくだりです。この書簡は自身のことを省いています。
亦先達て御流義御鎗御傳授下され候面々.今度御印可御巻物相認め候に付差上せ申し候.
山本氏より鎗術の傳授を受けた九人は、いよいよ印可を相傳されることゝなりました。そのため印可の巻物を自前で認め用意したので、師範のもとへ送ります、と。姬路藩においては、自前で傳書を用意したものです。
御名前御判形遊はされ下され候様に仕り度候.
用意した巻物は、名前と判との所を空白にしてあります。そこへ師範に書き込んでください、と。
勿論巻数九通り遠路の儀にも御座候間.器一つに入れ相廻し差上せ申し候.
九通りとあるのは、一通り恐らく五巻、計四十五巻あったと考えられます。
略儀の段偏に御用捨下され候様に.何も宜しく申し上け呉れ候様呉々申し聞け候.
それらの巻物を一つの器に入れるのは、なにかぞんざいな扱いのように思われ、申しわけないという訣です。「何も宜しく申し上け呉れ候様呉々申し聞け候」というのは、巻物をぞんざいに扱うことをどうか御用捨ください、とくれぐれも伝えてほしいの意。これは取次の者に頼むという躰。
神文も九通相添へ差上せ申し候.何分然るへき様頼み上け奉り候.
神文は前回取り上げた「印可起請文」のことです。
此段申し上くへく為愚札を捧け候.恐惶謹言.
この用件を伝えるために書簡を送ります、と遜って言う。
月日.金原浅右衛門.名乗判.宗豊(判).
金原宗豊は 超宗君の御家来。安永七年、御留守居役となって出府したとき、公儀の御旗本山本久忠に入門して学んだと記録にあります。この書簡案自体は、天明二年六月に認められたものと考えられます。「名乗判」とあるのは、浄書するときこゝに書き込むという目安。
山 嘉兵衛様御披露.
公儀の鎗術師範山本久忠のこと。「御披露」とあるのは、直宛は失礼につき取次の者に披露を頼むという躰をとるわけです。
尚々.向暑の節折角御自愛遊はされ候様にと存し奉り候.序て乍ら時候御容躰も相伺ひ申し上け候.猶追々萬喜申し上くへく候.以上.
追伸の定型詞です。本文の定型詞から漏れる分をこゝへ。敢えて斯うすることで、丁寧さを増したものかと察せられます。